赤い羽根共同募金助成事業
高知市こども劇場創立50周年記念事業
「茂山狂言!いかがでござった?
 舞台芸術の今と未来を『笑うて』語ろう!」報告(5)

高知市こども劇場創立五十年記念特別公演『茂山狂言へ!そろりとまいろう!!』を無事終え、翌日の11月15日(土)、ザ・クラウンパレス新阪急高知にて、特別公演参加者対象に、事後講演会『茂山狂言!いかがでござった?』を行いました。
白いシャツに黒いニット、細身のパンツにスニーカー、という洋装で現れた茂山千之丞さんは、あらたまった雰囲気に驚きつつも、横に広い会場の皆さんに「入射角広いな〜顔が見えます?大丈夫?」と声をかけ、笑いを起こすところはさすがです。聞き手の理事・武市とともに席について、講演会がスタートしました。

前日の公演で

まずは前日の公演の話から。
子どもとおとなが約2:3の割合で参加していた昼公演では、多くの場面で古典の狂言の言葉を現代語に変換して会話が進んでいましたが、これは事前に打ち合わせて決めたのではなく、その場で “ここは古典のままで” “ここは現代語に翻訳して” やり取りを進めていたそうです。この発言には会場から「えー!」と声が上がりました。
「役者は舞台上で、お客さんから見えている演技のひとつ下で、役者同士でやり取りしているんです。」長く舞台をともにしてきた経験から、会話の何手か先の展開までを見越してうまくやり取りができるそうです。せっかく観に来られたお客さんとなるべく早く親しくなって、楽しくなって帰ってもらいたい、という気持ちから、自然と行っていることなのだそうです。

子どもたちとのワークで

9月中旬に行った、三里小学校での狂言ワークショップはどうでしたか?という質問に、「暑かった!」と即答。30度近い体育館で、千之丞さんは汗だくでした。(当日の様子はこちら
ワークでも習い事でも、舞台を観にいくことだって、子どもたちに事前に「行けばこんな良いことがあるよ」と “成果” を提示できないものだけれど、ごくごく稀にすごく役に立つこともあるし、抑圧された気分を発散し、考え方を変える転機になることもあります。「だからとりあえずやってみよう、やってみたら何かいいことがあるかもしれない。」という言葉に、子どもたちと向き合うときの姿勢が伺えました。

コロナ禍の中で

今年の春から夏にかけて、舞台公演が次々キャンセルになり、4月には知り合いの狂言師の方が42歳でお亡くなりになって、何もやりたくないという気持ちになった時期もあったそうです。
そんな中、茂山千五郎家ではYouTubeで配信を始められました。それならそれで楽しもう、と、インターネットの “ずれ” を利用して、文楽のように “動く人” と “セリフを言う人” を分けるなどの試みもして来られましたが、「やはり本物の舞台とは比べようもない。」と思っておられたそうです。
しかし、この配信は海外の人や国内でも公演で行かない地域の人にも見てもらえることから、9月以降舞台公演が戻ってきた後も、隔週で続けているとのことです。

舞台からめっちゃ見えてますからね

前日の公演の感想には、「YouTube配信を見ていたけど、やっぱり『生の舞台』は違う!」という言葉がありました。劇場が開いたということは、役者側だけでなく、観客側にとってもとても喜ばしいことでした。
舞台の上からは、観客が座っているだけで情報が出ているので、たとえお客さんの表情まで見えていなくても伝わってくるものが必ずあるのだそうです。役者として、“ゾーンに入る” と、数百人のお客さんの中のほんの数人、『あそこの一角を笑わせる』ということができるそうです。そんな、生涯に数度しか訪れない瞬間がくると、笑いの波を起こすこともできるとか。「演者が楽しそうだと楽しい」と言われるけれど、それは「観客が楽しそうだと演者はノッてくる」ということと同じで、観客も舞台に影響を与えているのだそうです。

これからの舞台

コロナ禍にあって、舞台を取り巻く状況は一変しました。そして今後もすべて元どおり、というわけにはいかなくなりました。この状況下で感じておられることを最後に伺いました。
「今まで慣習で変わらなかったものが変わってきたのは悪いことではない。
これまで特に舞台に興味がなかった層に『なんとしてでも舞台を観たい!』という層の熱が伝わったのはよかった。『そんなにまで観たいと思うものなの?舞台って。それなら観てみようかな。』という人も出てくることだろう。
コロナ禍で人との距離感が変わった。スクリーン上ならまだしも、舞台の上でキスシーンなどがあったらびっくりされることだろう。
今年の2月3月くらいまでの狂言と、それ以降は違う。その中で楽しんでいけるものを作っていくしかない。」
一言一言に、現実を見据えながらポジティブに進んで行こうという意思が感じられ、私たちも励まされる想いでした。

講演会を終えて

今回の講演会の冒頭には、千之丞さんは「狂言は、伝統芸能ではあるけれど、同じことを変わらぬように伝えていこうとしているのではなく、生の舞台公演で毎回お客さんは変わり、配役も変わるので、主観的には毎回新しいことをやっている感覚がある。」というお話をなさいました。
終わりには、「高知にはたびたび来ているが、文化は根付くのに時間がかかるので、狂言への熱が消え去ってしまわないように、また出会えますように。他のお芝居も、いろんなものを見てね。」とおっしゃっていました。
本当に。一期一会の狂言を、新鮮な気持ちで、また一緒に楽しめる機会がやって来ますように。

高知市こども劇場創立50周年記念事業
狂言実行委員会

終演後、ザ・クラウンパレス新阪急高知さんのご配慮で12階「菫の間」にて、茂山千五郎家のみなさんと昼食をいただきました。アクリル板の設置などこれ以上はないコロナ対策を施して下さり、安心してお食事を楽しむことができました。 ザ・クラウンパレス新阪急高知さんには、講演会の準備の段階から親身になって対応していただき、本当にありがとうございました。

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